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大阪高等裁判所 昭和31年(ラ)56号 決定

抗告人 小寺一夫

主文

原決定を取消す。

神戸地方裁判所昭和二九年(ヨ)第六六五号事件について抗告人が昭和二九年一二月二〇日神戸地方法務局供託番号昭和二九年金三、三一三号を以て供託した金七〇、〇〇〇円の保証を取消する。

理由

抗告代理人は主文同旨の裁判を求めたが、その抗告理由は別紙記載の通りなので案ずるに、本件記録によると抗告人と利害関係人との間の神戸地方裁判所昭和二九年(ヨ)第六六五号事件について抗告人は神戸地方裁判所から命ぜられた保証として同年一二月二〇日神戸地方法務局に供託番号同年(金)第三、三一三号を以て金七〇、〇〇〇円を供託して同裁判所から「右両者間の同裁判所昭和二九年(ケ)第二八七号不動産競売手続を本案判決のある迄停止する」との仮処分の決定を受けたところ抗告人は右仮処分事件の本案訴訟である同裁判所昭和三〇年(ワ)第四〇号契約無効確認等請求事件について昭和三〇年一二月二四日敗訴判決の言渡を受けたので大阪高等裁判所に控訴を提起し、右控訴事件を本案とする仮処分事件である同裁判所昭和三一年(ウ)第二二号事件について同裁判所から命ぜられた保証として大阪法務局に供託番号昭和三〇年(金)第二〇、五二九号を以て金一〇〇、〇〇〇円を供託して「前記不動産競売手続を右本案控訴判決のあるまで停止する」との仮処分決定を受けたことが認められる。

さて一般に本案訴訟の第一審の判決言渡あるまで効力を有する仮処分が保証を立てゝ発せられたところ、右仮処分の申請人が本案訴訟の一審で敗訴したので控訴し更に控訴審で同様の仮処分を申請し、更に保証を立てて同様の仮処分が発せられた場合、特別の事情のない限り、控訴裁判所は仮処分の保証金を定めるに当つてはその発する仮処分によつて将来相手方の蒙ることのある損害の担保を考慮するは勿論第一審の仮処分によつて相手方の蒙つた損害の担保をも考慮し、これを担保する金額を含めて保証を立てしめたと解すべきであり、特別の事情のあつたことの認められない本件においては大阪高等裁判所が前示の如く保証を立てしめて仮処分を発したことより前示神戸地方裁判所の仮処分の保証はその事由が止んだものと認むべきであり、右保証の取消の申立はその理由があり右申立を棄却した原決定に対する本件抗告はその理由があるので主文の通り決定する。

(裁判官 田中正雄 神戸敬太郎 平峯隆)

抗告理由

一、抗告人、相手方間の神戸地方裁判所昭和二十九年(ヨ)第六六五号仮処分事件について、抗告人は保証として同年十二月二十日、神戸地方法務局に供託番号同年金第三、三一三号をもつて金七万円を供託した上「右当事者間の同庁昭和二十九年(ケ)第二八七号不動産競売事件の競売手続を本案判決のあるまで停止する」旨の仮処分決定があつたが、右仮処分事件の本案訴訟である同庁昭和三十年(ワ)第四〇号事件において、同年十二月二十四日、敗訴の判決言渡により大阪高等裁判所に控訴を行い、且同庁昭和三十一年(ウ)第二二号事件において、保証として、金十万円を、大阪法務局に供託番号昭和三十年金第二〇、五二九号をもつて供託した上「前記不動産競売手続を右本案控訴判決のあるまで停止する」との仮処分決定を受けた。右により抗告人の第一審における仮処分決定の保証は供託原因消滅したものとして之れが保証取消を求めたところ、原裁判所は前記のとおり抗告人の申立を棄却した。

二、そして、右原裁判所の決定の理由とするところは、本件保証取消の申立には、仮処分が相手方に何等損害を加えるものでなかつたとか、又はその損害が法律上相手方において受忍すべきものであることを確認するに足る事情があるとの事由が認められないし、又仮処分命令の執行の効果が将来に向つて消滅したからといつて、既往の執行に基く相手方の損害を当然に無視し去ることはできず、右控訴審の仮処分のために立てた保証が、第一審の仮処分による相手方の損害の賠償請求権まで担保すると解するのも相当でないというにある。

三、しかし、本件につき、大阪高等裁判所より命ぜられた保証は第一審ならびに第二審の仮処分により生じる損害の全額を担保せしめる趣旨のものであつて、右第二審の仮処分の保証が、その仮処分が発せられた後に生じた損害のみに限局せられるものではない。此のことは、本件第一審における保証金は七万円であり、第二審における保証金は十万円であることよりも、うかゞわれる。右第二審の保証金額が、第一審のそれより高額であり、第二審においては、当然原審の損害をも担保せしめる趣旨のもとに右保証金額を定められたものと考える。

既に右と同趣旨の大審院決定、東京高等裁判所決定、東京民事地方裁判所決定があり、大阪区裁判所執行事務協議会の決議も為されている

大審院 昭和一二年(ク)六二六号、同年十二月二十四日決定

(裁判例(一一)民三二〇頁)

同 昭和三年(ク)九八九号、同年十一月十五日決定

(民集七巻九九三頁)

同 大正一一年(ク)一九号、同年四月四日決定

(民集一巻一六三頁)

東京高等裁判所 昭和三十年十月二十九日決定

東京民事地方裁判所 昭和一一年(ソ)七三二号、同十二年三月九日決定

(評論二六巻民訴三五七頁、新報四六八号二七頁)

大阪区裁判所執行事務協議会、昭和五年一月八日決議、同年九月一日大阪地方裁判所長認可

又、原決定においては、前記の諸決定につき、上訴審における保証が原審のそれより低額であつた場合不合理であるとなすが本件においては前記のとおり、上訴審における保証が、原審のそれより多額であり、且これらの決定が、本件事案に適切であると断じがたいとの点については、何等特別の事情のない本件において、原決定に示された、其の適切でないとの理由が明かでなくその判断は不当である右により原決定の取消を求めたく抗告に及んだ

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